大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 平成10年(行コ)20号 判決

愛知県海部郡甚目寺町大字森字流二〇番地

控訴人

株式会社トヨタツ

右代表者代表取締役

豊田辰夫

右訴訟代理人弁護士

尾関闘士雄

東京都千代田区霞ケ関一丁目一番一号

被控訴人

右代表者法務大臣

中村正三郎

右指定代理人

渡邉元尋

堀悟

栗田博氏

相良修

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  津島税務署長が控訴人に対し、平成五年三月三一日付けでした源泉所得税の納税告知及び同税に係る重加算税賦課決定に係る租税債務が存在しないことを確認する。

三  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

第二事案の概要

事案の概要は、次のとおり付加・訂正するほか、原判決の事実及び理由欄「第二 事案の概要」に摘示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決七頁九行目の次に行を改めて次のように加える。

「貸付金の利率に関しては、民法所定の年五分及び商事法定利率の年六分の概念があるが、これらは紛争解決の基準として法定されているものであって、一般取引社会における通常の利率とは全く異質のものであるから、私法上の行為の実質に着目してその課税関係を把握しようとする租税法の下では、一般取引社会における通常の利率が基準とされるべきである。」

2  同一〇頁三行目冒頭から同八行目末尾までを次のとおり改める。

「仮に、本件貸付金が存在するとしても、その利率については、当事者の合意・約定が優先されるべきであり、この約定がない場合には、年五パーセントの民事法定利率又は六パーセントの商事法定利率が適用されるべきである。本件の場合、控訴人と豊田辰夫との間に利息の約定はないから、年五又は六パーセントの金利が適用されるべきである。仮に、一般経済人が通常金銭消費貸借する場合、その時期における社会通念上相当とする利率、又は融資した者とされる者のその時期における資金コスト相当の利率と考えるとしても、年一〇パーセントという高率ではない。」

第三当裁判所の判断

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求は、理由がないからこれを棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり訂正のうえ、原判決の事実及び理由欄「第三 当裁判所の判断」の説示を引用するほか、後記二の付加する判断のとおりである。当審における証拠調べの結果も、右認定を左右するに足りない。

1  原判決一三頁一行目の「遊興費などに消費していた」を「三友商事株式会社の磯村への謝礼金、水増請求に協力してくれた外注先への手数料を支払った後、控訴人の簿外交際費に一部を費消し、残りを個人の遊興費や個人資産取得のために費消していた」と改める。

2  同一三頁八行目から九行目にかけての「これを認めるに足りる証拠はなく、」を「どのような蓄財から出費したかという具体的な主張はなく、これを裏付ける証拠も全く提出していないうえ、」と改める。

3  同一六頁九行目の「経済的合理人を基準としても」を「経済的合理性の観点からしても」と改める。

4  同二一頁五行目から六行目の「所得税法一九〇条一項」を「平成六年法律第一〇九号による改正前の所得税法一九〇条」と改める。

二  付加する判断

控訴人は、控訴人から豊田辰夫への貸付金であると認定するには、豊田辰夫において控訴人から借り受ける意思を有し、控訴人においても貸付けの意思があることなどが認定できなければならないと主張している。確かに、本件においては、控訴人がその代表者である豊田辰夫に対して、簿外で金銭を交付しているものであり、明示的には豊田辰夫が控訴人から同人への貸付金とする意思を表示していたとは認められない。しかし、乙四一、一〇五、一〇六、一三五号証及び当審における控訴人代表者本人尋問の結果によれば、控訴人が簿外資産として作った資金は、代表者個人の遊興費や控訴人の経営規模の拡大安定のための裏金として費消されたことが認められるところ、遊興費に充てられた分については、将来控訴人に返還されることのない税法上の役員賞与の性質をもつものではないかとも考えられるが(仮に、これが豊田辰夫に対する役員賞与と扱われることになると、貸付金とされるよりも、控訴人及び豊田辰夫にとっては多額の税金が課税されることになる。)、その一方で、豊田辰夫が前記本人尋問で強調するように、控訴人の経営規模の拡大安定の目的が大きかったことからすると、これを全体として、豊田辰夫から控訴人に対して将来返還され、控訴人の資産に復することが予定されていた資産とみるのが相当である。したがって、黙示的には豊田辰夫において、控訴人から同人への貸付金とする意思があったと認めることができるものである(同人も乙一〇五、一三三の質問てん末書において貸付金とされることに不服のない趣旨の供述をしている。)。

また、控訴人は、貸付金の利率については、当事者の合意・約定が優先されるべきであり、この約定がない場合には、年五パーセントの民事法定利率又は年六パーセントの商事法定利率が適用されるべきであると主張する。しかし、課税は経済的利益の価額に対してなされるべきものであるから、貸付金の利率についても一般取引社会における通常の利率を基準として決定すべきであるところ、民事又は商事法定利率は、利率の約定がなかった場合に、紛争解決のために利率及び遅延損害金を画一的、かつ恒定的に定めるものであって、現実に受けた又は受けることができた経済的利益の価額を基準として定められたものではないから、本件納税告知処分においては、利率の約定がないからといって、民事又は商事法定利率が適用されるものではない。さらに、昭和六二年から平成三年当時の一般取引社会における通常の利率及び本件貸付の事情を考慮すれば、年一〇パーセントという利率は妥当なものであり、いわゆるバブルが崩壊し、景気が著しく低迷していることにより政策的にとられている最近の低金利を基準として高率であると判断するのは妥当でない。

三  よって、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宮本増 裁判官 野田弘明 裁判官 永野圧彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例